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横田英史の読書コーナー

スマートマシンはこうして思考する

ショーン・ジェリッシュ、依田光江・訳、みすず書房

2020.8.15  10:57 pm

 AIの進歩と社会に与えたインパクトを明快な語り口で解説した書。数式を使わず図や写真を効果的に用いて、ニューラルネットや深層学習、GAN(敵対的生成ネットワーク)などAIの仕組みを定性的に解説する。仕掛けを操る能力と文章力は大したものである。研究者の成果をより理解しやすいかたちに並べ替え、整理することを執筆目標においた筆者の目論見は成功している。AIの歴史と進歩の過程を定性的に知りたい方に向く書である。
  
 米Google機械学習&データサイエンス・チームのエンジニアリング・マネージャーを務めた筆者は、オートマトンから本書を書き起こす。その後、自動運転(DARPAのグランドチャレンジ)、リコメンデーションエンジン(ネットフリックスプライズ)、ゲーム(アタリ)、クイズ(ジェパディ!)、囲碁といった事例を取り上げ、ディープブルーやワトソン、AlphaGo(アルファ碁)、スタークラフト・ボットなどのシステムでAIがどのように進歩していったたかを解説する。
  
 筆者はAIの解説とともに、「ニューラルネットワークが生物学からアイデアを得たという理由からその手法を支持する姿勢は、多くのニューラルネット研究者が『危険をはらんでいる』と否定的にとらえている」などの警句も発しており読み応えがある。栗原聡・慶應義塾大学教授は本書の解説で、「技術を詳細に解説する横書きタイプと社会に与える影響や今後の展開を伝え横書きタイプがあるが、本書はその中間」と述べているが言い得て妙である。

書籍情報

スマートマシンはこうして思考する

ショーン・ジェリッシュ、依田光江・訳、みすず書房、p.392、¥3960

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。