横田英史の読書コーナー
ブルシット・ジョブ〜クソどうでもいい仕事の理論〜
デヴィッド・グレーバー、酒井 隆史・訳、芳賀達彦・ 訳、森田和樹・訳、岩波書店
2020.9.30 10:24 am
クソどうでもいい仕事「ブルシット・ジョブ」がなぜ存在し、このところ増殖しているのか、どのような弊害をもたらしているかについて、数々の証言に基づき考察した書。なかなか痛快で読み応えがある。著者はこの9月に旅先のイタリアで急逝した米国の人類学者。ウォール街を占拠した「私たちは99%だ(We are the 99%)」運動で指導的役割を果たした。コロナ禍が社会や企業に必要不可欠な仕事と、どうでもいい仕事を浮き彫りにした今の時期にピッタリの書である。
ブルシット・ジョブとは、無意味で時間と資源の浪費であり、世の中をいっそう悲惨にしている仕事を指す。筆者によると、富裕国の37~40%の労働者が自分の仕事をムダと感じているという。筆者がブルシット・ジョブとして槍玉に挙げるのが、金融サービス、テレマーケティング、企業の法務や労務管理、健康管理などである。
企業の管理部門は可能な限り寄生者のレイヤを作り肩書を増やす。前例なき拡張を続け、企業の“ごくつぶし”と化す。管理対象であるはずの業務の直接的経験が乏しいか、あるいは本来果たすべきことを忘れるために全力を尽くし、あらゆることをやる“ややこしい”肩書を持った男女と手厳しい。
無意味な経営職や管理職はブルシット・ジョブの代表格だが、実入りや労働条件はよい。一方で社会に不可欠な仕事、いわゆるエッセンシャルワークは報酬が低いうえに、社会的な扱いがぞんざいである。なぜなのか。筆者によると、ブルシット・ジョブは罰であり、人間に苦痛を与える仕事である。放って置くとやり手がいない。だから報酬が高い。一方でエッセンシャルワークはそれ自体に価値がある。だからこそ報酬は少ないと、歴史や宗教的な見地から分析する。
書籍情報
ブルシット・ジョブ〜クソどうでもいい仕事の理論〜
デヴィッド・グレーバー、酒井 隆史・訳、芳賀達彦・ 訳、森田和樹・訳、岩波書店、p.、¥4070