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横田英史の読書コーナー

ニューヨーク・タイムズを守った男

デヴィッド・E・マクロー、日暮雅通・訳、毎日新聞出版

2020.10.17  1:37 pm

 ニューヨーク・タイムズ編集室の弁護士を15年間にわたって務める筆者が、マスコミへの中傷と非難を続け、2万回の嘘を振りまきながら事実に目を背けるトランプ政権との闘いを綴った書。映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインによるセクハラ・スクープを巡る闘いも含まれるが、大半はトランプ関連が占める。タイトルを「トランプからニューヨーク・タイムズを守った男」とした方が、内容がより正確に伝わりそうだ。米国政治とメディアに興味のある方に向く書である。
  
 本書には、憲法修正第一条や情報公開法、名誉毀損裁判、記者の裁判所への召喚、取材源の秘匿など、米国における報道の自由に関するトピックスが詰まっている。公益や安全保障、テロ対策と報道の自由とのせめぎ合いにも言及する。筆者は自らを、「情報を締め出すためではなく、紙面に載せるために存在する」と語る。報道の自由を巡る現在進行形の闘いに焦点を当てた貴重な証言の数々は読み応えがある。
  
 インターネットによる無料の情報発信の興隆によって、メディアは苦境にあえぐ。そのなかでニューヨーク・タイムズはトランプ政権になって部数を伸ばし、電子版の成功もあって好調を維持する。本書からはニューヨーク・タイムズのメディアとしての矜持が感じられる。メディアが生き残るための一つの方向を指し示した良書である。

書籍情報

ニューヨーク・タイムズを守った男

デヴィッド・E・マクロー、日暮雅通・訳、毎日新聞出版、p.400、¥2640

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。