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横田英史の読書コーナー

医療崩壊の真実

渡辺さちこ、アキよしかわ、エムディエヌコーポレーション

2021.1.10  2:34 pm

 新型コロナの第3波が押し寄せ医療崩壊が叫ばれるなかお薦めできる書。新型コロナによって炙り出された不都合な真実の数々をデータに基づき明らかにする。玉石混交のメディアの報道に煽られないために,一読をお薦めする。本編は150ページほどなので、2〜3時間もあれば読み終えることができる。最後の50ページに掲載された日本病院会の相澤会長との鼎談も秀抜な出来である。
    
 本書は報道されている医療崩壊の意味するところやその原因、日本の医療体制の構造的問題、医療崩壊にいたらないための解決策を700の医療機関からのデータに基づき論じる。なぜ欧米に比べて病床数が多く、しかも感染者数も大幅に少ないにもかかわらず医療崩壊に向かうのかを説得力をもって解説する。
    
 本書を読んで一番に感じるのは、政治や行政システムのポンコツぶりと軌を一にする構想力不足とマネジメント不在ぶりである。医療機関の病床や専門医師といった医療リソースの配分が適正になされていないことが医療崩壊につながる。
    
 コロナ患者を受け入れた医療機関では必要な医療リソース(機材や医療スタッフ)が不足していたり、逆に受け入れていなかった医療機関ではダブついていたりと全体最適的にはほど遠い。「素泊まり入院」「立ち枯れ病院」「おまかせ医療」「おまかされ医療」といった日本の医療の問題点も指摘する。希望的観測や感情論で重要な意思決定を行う、官民で共通するデータ軽視の姿勢もひどい。

書籍情報

医療崩壊の真実

渡辺さちこ、アキよしかわ、エムディエヌコーポレーション、p.208、¥1650

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。