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横田英史の読書コーナー

闇の脳科学〜「完全な人間」をつくる〜

ローン フランク、赤根洋子・訳、文藝春秋

2021.2.12  10:40 am

 脳に電気刺激を与える精神疾患治療を50年も前に行っていた医師ロバート・ヒースの足跡を丹念にたどった書。白衣姿の老医師が頭蓋骨を計測している表紙の写真が怪しげな雰囲気を醸し出し“イロモノ”を思わせるが、正統派ノンフィクションである。ミステリー小説のような展開は読み応え十分で、ノンフィクション好きには強くお薦めできる。

 筆者は、学会から異端児扱いされ、部下のスキャンダルもあって「なかったことに」されているヒースの研究の数々を明らかにする。親族を含む関係者への取材を積み重ね、写真や動画を含め入手困難だと思われていた資料を発掘しながら、研究の詳細を明らかにする。

 ヒースがニューオリンズのテュレーン大学で行った研究は脳深部刺激療法と呼ばれる。脳の深部に電極を埋め込み電気的刺激を与える。うつ病や統合失調症、サイコパス、てんかんなどの治療に使われた。DARPA(国防高等研究計画局)が軍用への転用のために研究を進める最先端技術である。

書籍情報

闇の脳科学〜「完全な人間」をつくる〜

ローン フランク、赤根洋子・訳、文藝春秋、p.326、¥2200

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。