横田英史の読書コーナー
AIの倫理学
M. クーケルバーク、直江清隆・訳、丸善出版
2021.2.26 10:48 am
この書評で取り上げた「未来技術の倫理〜人工知能・ロボット・サイボーグ〜」よりも深くかつ広く、AIの倫理を論じた書。筆者はウィーン大学哲学部の教授で、AI倫理の第一人者である。リスクや倫理について理解していない人間が、調教されていないAIを使う危なさを訴える。古代ギリシアや古代宗教に遡るとともにSFにも言及し、懐深く哲学的な考察を加える。科学者や技術者への提言を盛り込む。欧州諸国の対応状況やIEEEでの議論など最新の話題をカバーしており勉強になる。
本書を読むと、AIを論ずることは、人間の社会や知識、道徳を論ずることだということがよく分かる。例えば機械学習には、アルゴリズムやデータセットの選択などに人間の倫理的側面が介在する。スーパーインテリジェンスを備えたAIに権利を与えるべきか、AIが身近になったときにAIに対する虐待をどう扱うべきか(犬型AIロボットを蹴ってもいいのか)、AIの道徳的責任をどうするべきか、AIの説明責任をどう考えるかなど多角的に議論を進める。
AIの責任に製造物責任の考え方を適用したり、「新しい技術のデザインに倫理を埋め込む」「ロボットや自律システムに倫理的なブラックボックスを実装する」という考え方など、本書の議論は示唆に富む。哲学部教授の書だが、優れた翻訳もあってさほど苦もなく読み通せる。本文中に挿入した翻訳者の手による補足も適切で理解が進む。AIの論理に関心のある方にお薦めの書である。
書籍情報
AIの倫理学
M. クーケルバーク、直江清隆・訳、丸善出版、p.196、¥2640

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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