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横田英史の読書コーナー

昭和16年夏の敗戦-新版

猪瀬直樹、中公文庫

2021.3.31  3:01 pm

 日米開戦の半年ほど前に、軍人や官僚、民間企業から30代前半のエリートを集め、内閣総理大臣直轄として設立された総力戦研究所の歴史をたどったノンフィクション。総力戦研究所は机上訓練や情報分析によって「日米戦日本必敗」の結論を下し、昭和16年7月に内閣へ報告した。筆者は、総力戦研究所とは何か、「日本必敗」の結論までの過程、「日本必敗」の報告はなぜ葬られたのか、丹念な取材と資料をもとに追っている。
   
 本書を読むと、「走り始めたら止まらない(止められない)」「データより空気」という日本組織の根深い問題を改めて感じる。驚くのは、総力戦研究所が導き出したシミュレーション結果がほぼ実際の戦局と合致している点だ。データに基づき、「開戦直後は有利に「石油確保を目指した南方作戦は、タンカーが米国の潜水艦の攻撃を受けることで所期の目的を達せない」とした結論を、日本政府が生かすことはなかった。
   
 社会人になって10年、30年代前半のエリートたちは、忖度せず「日本必敗」の結論を出した。こうしたエリートたちも、歳を重ねるとポンコツ化するのだろうか。だとすれば、この国に必要なのはリーダー教育(帝王学)なのかもしれない。総力戦研究所が出した分析に対する東條英機陸相(直後に内閣総理大臣)のコメント「戦争というものは計画通りにいかない」が印象的である。「不都合な真実を見ない、無かったことにする」宿痾は変わらない。

書籍情報

昭和16年夏の敗戦-新版

猪瀬直樹、中公文庫、p.296、¥792

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。