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横田英史の読書コーナー

典獄と934人のメロス

坂本敏夫、講談社

2021.4.13  3:12 pm

 関東大震災で倒壊した横浜刑務所で起こった出来事を、30年をかけて明らかにしたノンフィクション。当時の資料がほとんど残っていないなか、知られざる歴史を掘り起こした労作である。読み応え十分で、良書に出会うことの喜びを感じられる。朝日新聞の土曜版「フロントランナー」欄で紹介された、作家や出版関係者らが全国から足を運ぶ「隆祥館書店」店主のお薦めの1冊だが、さすがの目利きである。
   
 横浜刑務所の受刑者934人は、24時間の猶予を与えられて解放される。本書は囚人解放の決断を下した典獄(刑務所長)の椎名道蔵を軸に、刑務官、受刑者、受刑者の親族、警察、海軍などの行動を明らかにする。結果的には「走れメロス」のごとく、解放された囚人の多くは24時間以内に戻ってくる(他の刑務所や警察署に出頭した人間を入れれば脱走した囚人はゼロ)。筆者はその過程を数々のエピソードを交え紹介する。

書籍情報

典獄と934人のメロス

坂本敏夫、講談社、p.362、¥1760

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。