横田英史の読書コーナー
エンジニアリングシステムズ〜複雑な技術社会において人間のニーズを満たす〜
オリヴィエ・L・デ・ヴェック、ダニエル・ルース、クリストファー・L・マギー、春山真一郎・訳、神武直彦・訳、白坂成功・訳、冨田順子・訳、慶應義塾大学出版会
2021.4.24 3:21 pm
複雑化と大規模化が進む社会基盤システムをどのように分析・設計すべきかを論じた専門書。エンジニアリングシステムズは、工学や経営科学、社会科学を組み合わせて人間のニーズに応える学際的な学問である。システムそのものと、そのシステムを分析・設計する手法を対象とする。カバー範囲はシステム工学、オペレーションズ・リサーチ、製造、技術管理、イノベーション、起業家精神、政策などと広い。
筆者は、交通や通信、電力(エネルギー)の発明から複雑なシステムに進化し、さらにエンジニアリングシステムズに至るまでの過程を、歴史を辿りながら明らかにする。順を追って説明しており理解しやすい。社会システムと複雑に絡み合い、技術だけでは解決できない社会基盤システムをデザインする上で不可欠な考え方を本書は提示しており、一読に値する。
興味深いのは、エンジニアリングシステムズを議論するときの最も重要な要素として「イリティ」を挙げているところ。接尾辞に「ity」をもつ品質(quality)、信頼性(reliability)、操作性(operability)のほか、安全性(safety)をエンジニアリングにおける伝統的なイリティとする。複雑なシステムの時代になると拡張性(extensibility)と堅牢性(robustness)が加わる。さらにエンジニアリングシステムズの時代では、復元力(resilience)、柔軟性(flexibility)、持続性(sustainability)が重要になるという。
書籍情報
エンジニアリングシステムズ〜複雑な技術社会において人間のニーズを満たす〜
オリヴィエ・L・デ・ヴェック、ダニエル・ルース、クリストファー・L・マギー、春山真一郎・訳、神武直彦・訳、白坂成功・訳、冨田順子・訳、慶應義塾大学出版会、p.248、¥3960