横田英史の読書コーナー
世界は「関係」でできている〜美しくも過激な量子論〜
カルロ・ロヴェッリ、冨永星・訳、NHK出版
2022.1.7 9:49 am
イタリアの理論物理学者が語る量子論。物理世界そのものが相関、つまり相対情報の網で成り立っており、古い物理学が提供してきた明瞭で確固とした世界は実は幻だったと断じる。本書を読んでも量子論を理解できる訳ではないが、量子論は「現実の世界にこういう解釈できる」と思わせてくれる。
筆者は、すべてのものが何か別のものへの作用の仕方だけで成り立っていると主張する。「事実は相対的」「物理変数は事物を記述するのではなく事物の互いに発する発言の仕方を表現する」「世界の実体ではなく、関係に基づいて考えなくてはならない」と述べる。「どんな現象であろうと明瞭に記述するには、その現象が発現する相互作用に関係するすべての対象物を含める必要がある」とする。
本書は、仏典のナーガールジュナや古代インドの仏教哲学に言及するなど、全体に物理学の書というよりも哲学の趣きがある。文章は文学的で、数学や物理の知識がなくても読み進むことができる。世界は関係でできているという筆者の主張は、量子力学の「多世界解釈」に似て奇妙なだけに魅力的である。本書評で取り上げた「実在とは何か」と併せて読むことをお薦めする。
書籍情報
世界は「関係」でできている〜美しくも過激な量子論〜
カルロ・ロヴェッリ、冨永星・訳、NHK出版、p.240、¥2200
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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