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横田英史の読書コーナー

日本経済 衰退の構図

石見徹、東京大学出版会

2022.2.6  12:24 pm

 手を変え品を変え成長戦略を繰り出し構造改革を叫んでも、日本経済が停滞から抜け出せない原因を多角的に探り、今後の日本の在るべき姿として「柔軟で活力ある福祉国家」を提起した書。すごく目新しい議論が展開されている訳ではないが、筆者の分析はよく整理されている。日本経済の現状を認識する上で有用な論点を示した書である。
      
 筆者が繰り返し述べるのが、政府や政治への信頼感の欠如、高齢化に伴う企業や社会の保守化である。日本経済の課題は明確になっているにもかかわらず、抜本的な対策を講ずることもなく、先送りに終始する。政府債務の膨張は、社会保障の持続性に疑問をもたせる。国民は足元を見透かし、政府が甘言を繰り返しても消費は冷え切ったままである。立ち遅れたICTでは、逆に「後発の利」を活かせそうだが、年老いた経営者や企業組織の硬直化がイノベーションを阻む。経産省の若手官僚が著した書籍「不安な個人、立ちすくむ国家」そのものである。
      
 根源的な問題は、政府のみならず経営者、労働組合が高度成長期の成功体験からいまだ抜け出せないところ。高度成長期や安定成長期までは機能した仕組みが、グローバル化や自由化、IT化の進展に対応できず混乱が収まらない。成長戦略も言いっ放し、やりっ放しで、ろくに検証をしない。「やっているふり」としか思えない。筆者は最後に北欧をモデルにした日本再生のモデルを提示するが、政治・行政への信頼感の欠如を考えると実現可能性に疑問が残る。

書籍情報

日本経済 衰退の構図

石見徹、東京大学出版会、p.322、¥3630

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。