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横田英史の読書コーナー

共感が未来をつくる〜ソーシャルイノベーションの実践知〜

野中郁次郎・編・著、千倉書房

2022.4.10  10:21 am

 社会問題に対する革新的な解決法「ソーシャルイノベーション」の国内事例を紹介するとともに、進め方や展開プロセスを分析した書。住民と行政、企業が交流と相互理解を進めることによって共感を醸成し、地域の問題に対峙することが肝要と説く。筆者は執筆の理由を、日本企業や社会が本来の輝きを取り戻すためにヒントが、様々なソーシャルイノベーションの取り組みにあると考えたからとする。この視点で本書を読むのも良いかもしれない。
     
 本書が取り上げる事例は具体的である。例えば地域の特色を引き出した周防大島の「瀬戸内ジャムガーデン」や長野県の「千曲川ワイン」の事例、NTTドコモのアグリガールやカルビーのカルビーフューチャーラボなど大企業が参画した事例、信用金庫が参画した「江戸っ子1号」など地域企業の強みを活かした事例、国境を超えた中古車のリサイクル・エコシステムを構築した金沢市の企業の事例である。いずれも興味深く、楽しく読める。
      
 成功するソーシャルイノベーションは4つの段階を経るという。第1段階では共感を導き意識改革と行動につなげる。第2段階は課題抽出から解決策の策定。第3段階は地域コミュニティと企業の連携による解決策の具体化。第4段階は住民が自ら見出した解決策を住民自身が実践する。本書は国内事例のみなので、グローバルなソーシャルイノベーションについて知りたい向きには、本書で紹介した「これからの『社会の変え方』を、探しにいこう」を併せて読むことをお勧めする。

書籍情報

共感が未来をつくる〜ソーシャルイノベーションの実践知〜

野中郁次郎・編・著、千倉書房、p.336、¥2970

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。