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横田英史の読書コーナー

人新世の科学〜ニュー・エコロジーがひらく地平〜

オズワルド・シュミッツ、日浦勉・訳、岩波新書

2022.4.15  10:24 am

 社会の持続可能性を実現するために人間と自然を一体に考える思考「ニュー・エコロジー(新しい生態学)」を解説した啓蒙書。ニュー・エコロジーの歴史と内容を振り返るとともに、最新の知見や実践例を紹介する。人類が地質や生態系に影響を及ぼす時代「人新世」における産業のあり方や都市開発の指針を示している。人間が作り出した構造物の量が、自然の生物量と同程度になったと言われている現在、頭の片隅に置いて悪くない内容である。
      
 筆者は冒頭で、アラスカのブリストル湾地域を紹介する。サケなどの自然資源が豊富なだけではなく、金・銅・モリブデンといった鉱物資源にも恵まれる地域である。自然の巧妙な仕組みを解説するとともに、自然保護と開発の折り合いをどのようにつけるかを説く。自然の仕組みに触発された産業-生態系システムや都市の生態域を設計するための指針を示す。
      
 本書が紹介する環境スチュワードシップやテレカップリング、産業生態学、都市生態学といった考え方は興味深い。例えば環境スチュワードシップは、人間中心主義と生態中心主義の中間に位置する倫理規範で、人間が地球から預かった自然資産を、責任をもって管理運用することを意味する。産業生態学が目標とするのは、資源搾取に伴う環境負荷を最小化し、循環型経済の構築である。

書籍情報

人新世の科学〜ニュー・エコロジーがひらく地平〜

オズワルド・シュミッツ、日浦勉・訳、岩波新書、p.246、¥968

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。