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横田英史の読書コーナー

イノベーターのためのサイエンスとテクノロジーの経営学

牧兼充、東洋経済新報社

2022.5.18  12:18 pm

 イノベーションとベンチャー企業、アントレプレナーを生み出すにはどのような環境が必要か、逆にどのような環境が悪影響を及ぼすかなどを、定量的な分析や研究に基づいて論じた書。「政府の補助金は有効か」「スターサイエンティストの存在によってスピリオーバー効果を期待できるか」など、興味深い論点を提供する。イノベーションに興味を持つ方に強くお薦めできる良書である。
      
 本書は、早稲田大学ビジネススクールの授業「科学技術とアントレプレナーシップ」をベースに書籍化したもの。科学技術に関する「知」はいかにして生み出されるのか、その「知」からいかにしてベンチャー企業を含めた新産業が創出されるのかなどについて多角的に考察する。論理構成が明確で、議論の進め方が極めてクリアで役立ち感がハンパではない。東京大学 本郷生協の経済・経営・ビジネス書ランキングでベストセラー入りしているが、東大生はこういった書籍を読んでいるのかと感心する。
      
 筆者は、定量論文の読み方を紹介したあとで、イノベーションや起業に関する数々のテーマについて、それぞれ3本の定量論文をもとに議論を展開する。例えば、「イノベーションは担うのは大企業か小企業か」「スターサイエンティストはなぜ重要か」「科学技術の知は、なぜ特定の地域に集積するのか」「なぜ起業活動は特定の地域に集積するのか」「ベンチャーキャピタルはなぜ重要なのか」「大学発ベンチャーはイノベーションを促進するのか」といったテーマを次々に挙げる。
      
 このほか筆者は定量論文を読むことの重要さを説く。定量論文を数多く読むことで、世の中に出回っている統計情報の中でどのような情報を信頼して、どのような情報を疑うべきなのかの判断に役立つ科学的思考法が身に付くと主張する。

書籍情報

イノベーターのためのサイエンスとテクノロジーの経営学

牧兼充、東洋経済新報社、p.272、¥2860

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。