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横田英史の読書コーナー

ベリングキャット〜デジタルハンター、国家の嘘を暴く〜

エリオット・ヒギンズ、安原和見・訳、筑摩書房

2022.5.26  6:32 pm

 情報技術を駆使することで調査報道を根本的に変える「報道のDX」を紹介した書。新聞では英調査報道機関と形容されることの多いべリングキャット(Bellingcat:猫に鈴をつけるの意味)社の成り立ちと調査プロセスの詳細を創設者自らが語る。地図情報(GoogleMap)やSNS、画像、動画、流出データベースなど、手に入る膨大な“オンライン・オープンソース”を駆使して真実に迫る手法は見事である。
      
 最近では米ニューヨーク・タイムズなどが同様の手法を取り入れ、「シン・調査報道」は広がりつつある。日本では日本経済新聞がレベルは低いものの取り入れ始めている。取材をせずインターネットの情報だけで作り上げる「こたつ記事」の評価は低いが、オープンな情報を使いこなして真実に迫るべリングキャット社の「安楽椅子探偵」の手法は一線を画す。今後のメディアの在り方に興味のある方には必読の1冊だろう。
 筆者は、ロシアのプーチン政権やシリアのアサド政権など、平然と捏造や隠蔽、嘘をつく権力者に立ち向かった具体的な事例の数々を紹介する。基本方針は特定、検証、拡散である。見過ごされている問題や発見されていない問題をネット上で特定し、あらゆる証拠を検証し、けっして推測に頼らない。わかったことを拡散し、広く知らしめる。
     
 べリングキャットが躍進したキッカケは、ロシアがウクライナ領域で撃墜した「マレーシア航空17便」の事件である。ロシアは、4D法(Dismiss否定、Distort歪曲、Distract目眩まし、Dismay恐怖)を駆使してしらばっくれる。べリングキャットは、公開情報を駆使して、ミサイルの種類、ミサイルの位置と場所などを特定し、ロシアの犯罪だと追い詰める。SNSの写真の背景からGoogleMapを使って場所と時刻を特定する過程はスリリングである。同様の手法が中国にも通用するのか興味のあるところだ。

書籍情報

ベリングキャット〜デジタルハンター、国家の嘘を暴く〜

エリオット・ヒギンズ、安原和見・訳、筑摩書房、p.368、¥2090

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。