Electronics Information Service

組込みシステム技術者向け
オンライン・マガジン

MENU

横田英史の読書コーナー

M&A後の組織・職場づくり入門~「人と組織」にフォーカスした企業合併をいかに進めるか~

齊藤光弘・編著、中原淳・編著 、東南裕美、柴井伶太、佐藤聖、ダイヤモンド社

2022.5.31  8:44 am

 M&A(企業合併)の成功のカギを握る、PMI(post merger integration:M&A後の統合)プロセスの要諦をまとめた手引書。よく整理されている。「組織と人」の融合をどのように進めるかを、アンケートデータを絡めながら解説する。M&Aというと、とかく戦略論や財務デューデリジェンス手法といった話題に偏りがちである。本書は一線を画し、契約(Day0)やクロージング(Day1)後に焦点を当てる。
       
 M&Aは企業文化や人事制度、評価制度が異なる2社が一緒になる大事業である。人と組織の統合はM&Aの成否を握る大問題だが、契約締結まで表立って動けないし、隠密裏に交渉は進むので相手方に関する情報も限られる。その結果、Day1後に組織文化が衝突しコミュニケーション不全に陥りやすい。M&Aの60%超が失敗に終わる理由の一つである。
       
 筆者はM&Aのシナジー効果を妨げる要因を3つあげる。一つは相容れない企業文化。相手企業に対する管理能力の欠如が問題となる。第2は変革実行力の欠如。経営スタイルと自尊心の衝突が足を引っ張る。PMIに携わった経験のある評者から見ても、本書の指摘はポイントを的を射ており役立ち感がある。
        
 PMIの組織づくりは、解凍、変化、再凍結の3段階を踏んで進めるべきだとする。相手方をリスペクトしつつ、社会人として当たり前とも思えることを、着実かつ確実に進めることが鍵を握る。NGワード集の作成が重要というのも興味深い。この書評で以前取り上げたノンフィクション「『学びほぐし』が会社を再生する」に比べて、本書は手引書らしく網羅性と抽象度が高い。PMIに関心のある方は併せて読むのがお薦めである。

書籍情報

M&A後の組織・職場づくり入門~「人と組織」にフォーカスした企業合併をいかに進めるか~

齊藤光弘・編著、中原淳・編著 、東南裕美、柴井伶太、佐藤聖、ダイヤモンド社、p.324、¥2640

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。