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横田英史の読書コーナー

現代ロシアの軍事戦略

小泉悠、ちくま新書

2022.6.14  5:52 pm

 ロシアの軍事・安全保障の研究者が、軍事的にも経済的にも「弱いロシア」が体面と大国意識を保つために、どのような軍事戦略を採っているのかを分析した書。ロシアのウクライナ侵略以前(2021年5月)に出版された書籍だが、さほど陳腐化していない。ウクライナ侵略の現状を理解するのに役立つ指摘もあり、読み応えがある。著者の専門家としての眼は確かで、テレビに引っ張りだこになっている理由がよく分かる。ウクライナ侵略の背景を知る上で必読の書だろう。
       
 筆者はロシアの軍事・安全保障戦略の中核を「ハイブリッド戦争」と位置づける。直接軍事力を行使するクラシカルな戦略だけではなく、非軍事的手段を組み合わせる。すなわち、サイバースペースでの攻撃、電磁波を用いた電子機器への攻撃、人の認識を操作し侵略を正当化する情報戦(プロパガンダ)を織り交ぜて、NATOや米国と対峙する訳だ。
      
 一方の欧米(NATO)もハイブリッド戦争を前提に戦略を組み立てる。実際クライナの現状を見ると、クリミア占拠(2014年)とシリアへの軍事介入(2015年)におけるロシアのハイブリッド戦争を参考に、NATOや米国が対応している様子もうかがえる。
      
 戦術核兵器使用に関する分析も注目に値する。いわゆる「エスカレーション抑止」である。限定的な核使用によって敵に「加減された被害」を与え、戦闘の停止を強要したり、域外国の参戦を思いとどまらせるというものである。

書籍情報

現代ロシアの軍事戦略

小泉悠、ちくま新書、p.320、¥1034

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。