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横田英史の読書コーナー

台湾有事のシナリオ〜日本の安全保障を検証する〜

森本敏、小原凡司、ミネルヴァ書房

2022.7.1  1:09 pm

 中国と台湾の軍事衝突に焦点を絞り、起こりうるシナリオを検討するとともに、日本がとるべき安全保障政策を論じた書。米国・台湾と中国の間の軍事的緊張がエスカレーションする過程とその後の展開に関するシナリオは詳細で説得力がある。ロシアのウクライナ侵略や中露の日本近海での示威行動、中国の南シナ海での現状変更活動、繰り返される北朝鮮のミサイル発射など、世界情勢は実にきな臭い。根拠のない楽観論に安住し、不都合なことは起きないことにするのではなく、課題に正対して準備すべきは準備する重要さを説く。
       
 台湾有事については米国インド太平洋軍司令官が2021年3月に、6年以内に中国による台湾侵攻の可能性に言及している。米国の国家安全保障問題の研究者や専門家の間では、台湾危機が起きる起きないかの議論は終わり、台湾危機がいつ起きるか、米国はどのように対処するべきかに研究の焦点は移っているという。笹川平和財団安全保障研究グループの「日米同盟の在り方研究」と、米国ヘリテージ財団とのプロジェクトをベースにした本書は、さまざまな切り口で台湾有事を検証しており勉強になる。緊張感を持って冷静に対処する上で、基調な論点を提供しており、お薦めの1冊である。
       
 この書評で取り上げた「現代ロシアの軍事戦略」(小泉悠著)でも強調しているが、本書もグレーゾーン事態への対処を重要視する。軍事力の直接行使ではなく、サイバー攻撃や電磁波攻撃、プロパガンダ、ディスインフォメーション、フェイクニュースなどによって日本を混乱に陥れる。グレーゾーンは直線的にエスカレートせず、どの時点で軍事力行使に発展するかを見極めるのは困難である。現在の戦争は、平時、グレーゾーン、有事を区別するのが難しくなっている。

書籍情報

台湾有事のシナリオ〜日本の安全保障を検証する〜

森本敏、小原凡司、ミネルヴァ書房、p.352、¥3850

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。