横田英史の読書コーナー
ソフトウェア・ファースト〜あらゆるビジネスを一変させる最強戦略〜
及川卓也、日経BP
2022.8.26 11:28 am
ソフトウェアがビジネスの中心を担い、インターネットがあらゆるビジネスの基盤になったときに、会社の組織や製品企画・開発、キャリア形成はどうあるべきかを論じたビジネス書。ちまたに溢れるDX本の一つだが、泥臭い部分にも踏み込み、綺麗ごとに終始するDX本とは一線を画す。例えば、一般ユーザーレベルのITリテラシの人がソフトウェアファースト人材になるための第一歩や、プロダクト企画や開発の前段階で使える具体的なフレームワークを提示する。ここでいうソフトウェアファーストとは、ソフトウェア活用を核として事業やプロダクトを開発することを意味する。
筆者はDEC、Microsoft、Googleでのエンジニア、プロダクトマネージャ、エンジニアリングマネージャの経験をベースに日本企業の勘違いを指摘し、ソフトウェア・ファーストを実現するための処方箋を示す。2019年10月発行の書で「積読一掃」活動で読み始めたが、古さを感じさせない“あたり”の書だった。ちなみ経産省のDXレポートの発表が2018年9月なので、ほぼ1年後に出版されたことになる。
筆者は、日本企業は製造業信奉からいまだ抜け出せていないと指摘し、経営陣の意思決定から組織運営、現場の動き方まで、人と組織のすべてをソフトウェアファーストに変える必要があると訴える。ITを活用した新規ビジネスの担当者は、産業構造の変化に対して敏感でなければならず、今まで資産だったものが負債になってしまうことを認識し、自社事業のカニバリゼーションを恐れないことが肝要だとする。
本書の特徴の一つに、「ソフトウェアファースト」と言いながらアナログに目配りしているところがある。ユーザー体験の向上につながるアナログ部分の果たす役割の重要さに言及する。Microsoftで“極めてマイナー”な組み込みWindowsの開発に取り組んだ経験が影響しているのかもしれない。
書籍情報
ソフトウェア・ファースト〜あらゆるビジネスを一変させる最強戦略〜
及川卓也、日経BP、p.380、¥2090