横田英史の読書コーナー
NOISE (上)〜組織はなぜ判断を誤るのか?〜
ダニエル・カーネマン、オリヴィエ・シボニー、キャス・R・サンスティーン、村井章子・訳、早川書房
2022.9.22 10:38 am
組織や個人が判断を誤る原因をノイズに求め、どうすれば誤りの少ない意思決定ができるかを論じた書の上巻。例えば、保険の査定や難民認定、裁判所の判決、人事評価、医師の診断など具体的な事例を引用しながら分析する。共著者に行動経済学の創始者でノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンが含まれているだけでも、読みたくなってしまう。
判断のバラツキというとバイアスに注目が集まりノイズは無視されることが多い。著者はこのアンバランスを解消し、不正の蔓延と金銭的コストの増加を防ぎたいとする。ここでバイアスは一貫性がある判断の偏りを指す。一方のノイズは判断のランダムなバラツキである。筆者はノイズを正しく把握することが重要だとする。
人は集団になると、判断が極端な方向に振れる「集団極性化(group polarization)」に陥りやすい。最初の意見に影響を受けて、ノイズやバイアスの連鎖が生じる情報カスケードが発生するからだ。集団では、気分などに起因するノイズを増幅しがちなので質(たち)が悪い。
人間の判断にはノイズが入り込み、どうしても判断の質を下げてしまう。直感的な予測に基づく判断を正すには、統計的な視点や外部の視点の導入が有効である。機械学習(AI)による判断はノイズがないだけではなく、多くの情報を活用する能力でも優位に立つと主張する。
書籍情報
NOISE (上)〜組織はなぜ判断を誤るのか?〜
ダニエル・カーネマン、オリヴィエ・シボニー、キャス・R・サンスティーン、村井章子・訳、早川書房、p.320、¥2310(上下とも)