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横田英史の読書コーナー

AI 2041〜人工知能が変える20年後の未来〜

カイフー・リー(李 開復)、チェン・チウファン(陳 楸帆)、中原尚哉・訳、文藝春秋

2022.12.28  10:40 am

 20年ほど未来の2041年の社会・生活を描いた書。SF小説とその背景となる技術解説をワンセットにして、10編のストーリーで構成する。AIや量子コンピュータ、VR/AR/MRが社会と生活をどのように変えるかを物語仕立てで紹介する。SF小説の部分は、ノンフィクションではカバーできない部分も描写しており、「なるほどね」と納得感がある。エンターテインメントとして楽しむのがお勧めである。
      
 もっとも、ウォールストリートジャーナル、ワシントンポスト、フィナンシャルタイムズの年間ベストブックで3冠達成とあるが、少々疑問に感じる。AIや量子コンピュータ、VR/AR/MRについてある程度の知識がある方にとっては、想定の範囲で話が進み驚きは小さいかもしれない。
      
 本書がカバーするのは、自動運転、仮想通貨、ブロックチェーン、AI医療、AI学習、自然言語処理、ディープフェイク、AI兵器、パンデミックが定期的に起こる社会など。AIが仕事を奪い、ベーシックインカムが導入された社会における人間の行動や心理を描いた章は考えさせられる箇所が少なくない。
       
 深層学習を使った保険プログラムの話も興味深い。保険料は生活習慣などによって左右される。保険プログラムは多くのアプリと連携しており、一見すると健康・安全につながる生活へと人間をどんどん導く。しかし「過ぎたるは及ばざるが如し」。合成の誤謬となって、それが悲劇につながる。

書籍情報

AI 2041〜人工知能が変える20年後の未来〜

カイフー・リー(李 開復)、チェン・チウファン(陳 楸帆)、中原尚哉・訳、文藝春秋、p.560、¥2970

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。