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横田英史の読書コーナー

暇と退屈の倫理学

國分功一郎、新潮文庫

2023.2.23  1:48 pm

 暇や退屈がなぜヒトを苦しめるのかを理解し、それらを人類史のなかで位置づけた哲学書。評者は書籍選びで、著者の自己満足ばかりが感じられ、「理解するのに無駄に時間がかかる」哲学書を敬遠することが多いが、東大准教授による本書は実に面白い。明治学院大学や多摩美術大学、高崎経済大学での講義がベースになっていることが、読みやすさと訴求力の強さに寄与しているかもしれない。文庫で512ページとそれなりの分量だが楽しく読み通せる。評者が書籍選びの参考にしている東京大学生協書籍部のランキングで、2022年年間2位となったのもよく分かる。
    
 筆者は、「暇とは何か。人間はいつから退屈しているのか」について、パスカルやラッセル、ルソー、ニーチェ、ハイデッガーなどの論考を批判的に読み解き、さらに考古学や人類学の仮説を利用しながら自説を展開する。例えば「定住によって人間は退屈を回避する必要に迫られ、それが文明に繋がった」といった具合である。
     
 現代の消費社会における気晴らしと退屈が抱える問題点や、消費と浪費の違いについての指摘はなかなか鋭い。浪費は満足をもたらすが、消費はモノに付与された観念や意味を消費するに過ぎず、そこには限界がないことを明らかにする。消費社会は、気晴らしをすればするほど退屈が増すという構造を作った。暇はあるけど退屈しなかった、かつて有閑階級が享受した贅沢を取り戻せと語る。

書籍情報

暇と退屈の倫理学

國分功一郎、新潮文庫、p.512、¥880

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。