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横田英史の読書コーナー

ネットワーク・エフェクト〜事業とプロダクトに欠かせない強力で重要なフレームワーク〜

アンドリュー・チェン、大熊希美・訳

2023.4.6  12:30 pm

 インターネットでビジネスを立ち上げ、急成長させ、競合他社を寄せ付けない存在にするため勘所を紹介した書。使う人が増えれば増えるほど製品やサービスの価値が高まる「ネットワーク効果」活用の要諦を自らの体験と取材をもとに明らかにする。豊富な事例を使った内容は、きわめて具体的で役立ち感がある。インターネット関連ビジネスの立ち上げや、テコ入れなどを考えている方、デジタルデータ活用の具体策を知ることもできるのでDXに興味のある方にも向く。
      
 筆者は、初期段階、成長初期、急成長期、安定期、参入障壁構築期と5つのステージに分けて、それぞれで打つべき具体策を披露する。事例としては、ウーバーのほか、エアビーアンドビー、スラック、ズーム、インスタグラム、イーベイ、リンクトイン、ペイパルなどを取り上げる。興味深いのは、安定的に機能し、自律して成長できる「アトミックネットワーク」を重要視しているところ。アトミックネットワークをきちんと機能させ、最初のコミュニティに根付いてから、他のコミュニティに広げることが肝要とする。コミュニティの規模は重要ではないという。例えば、メディアを総動員したビックバン型立ち上げは失敗に終わることが多いと指摘する。
       
 「ハードサイド」と呼ぶ重要な活動を担う少数のユーザーを獲得し、ネットワークに引きつけ、維持することの重要性も説く。ハードサイドのユーザーの存在なくしては、ネットワーク効果は望めないと強調する。ちなみに筆者は、ウーバーの初期に入社し、数年で10倍以上に達した急成長を目の当たりにした後、ベンチャーキャピタリストに転身した人物である。本書は、ウーバーでの体験とスタートアップの創業者/初期従業員への取材をもと執筆したという。

書籍情報

ネットワーク・エフェクト〜事業とプロダクトに欠かせない強力で重要なフレームワーク〜

アンドリュー・チェン、大熊希美・訳、p.416、¥2420

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。