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横田英史の読書コーナー

ヒトという種の未来について生物界の法則が教えてくれること

ロブ・ダン、今西康子・訳、白揚社

2023.4.22  3:45 pm

 地質に「人新世」という区分を生むなど、地球に大きな影響を与えている人類の将来を予測した書。細菌や樹木、虫、鳥といった生き物にあまねく適用される法則を手がかりにする。結論は単純明快。筆者は、人類の滅亡は不可避だが、滅亡までの時間を引き伸ばすことは可能だと述べる。そのためには、生物の多様性を維持し、温室効果ガスの排出を減らして気候変動を抑えることが肝要だとする。
      
 こう書くと当たり前の内容に聞こえるが、筆者はさまざまな事例をあげて説得力を高めている。都会と島の環境には類似性があり生物に対して同様の影響を及ぼすことや、細かく分けた区画ごとに別々の生態系を作り生き物の変化を見る自然環境下の実験など、とても興味深い事例を紹介する。
      
 一方で筆者は、「自然界は危機に瀕していない、人類の横暴程度で自然(生物)が終焉に向かうことはない」と断言する。人類がいなくなるとまず昆虫が支配者となり、最終的には微生物の世界になると予測する。このほか、気候や降雨量などの自然環境の“ばらつき”が、生き物にとって大きな影響を及ぼすと指摘する。ばらつきが大きすぎると、生き物は自然環境の変化に適応しきれなくなり、ついには絶滅するという。生物や環境問題に興味のある方に向く書である。

書籍情報

ヒトという種の未来について生物界の法則が教えてくれること

ロブ・ダン、今西康子・訳、白揚社、p.350、¥3080

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。