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横田英史の読書コーナー

半導体有事

湯之上 隆、文春新書

2023.4.28  3:48 pm

 米国や日本、台湾、中国における最近の半導体を巡る動きを紹介・分析した書。日立製作所で半導体エンジニアを務めた後に、ジャーナリスト兼コンサルタントに転じた筆者らしく、技術的・ビジネス的なポイントをきちんと押さえており説得力に富む。若干脱線気味なところもあるが、歯切れの良い書きっぷりも悪くない。これまで「半導体戦争」「半導体の地政学」などの書評を紹介したが、本書はバランスと深みに優れており、役立ち感に勝る。半導体の現状と今後に興味のある方にお薦めの1冊である。
     
 本書がカバーするのは、米国による中国に対する半導体規制の内容と影響、米中対立が引き金となった台湾有事の可能性、TSMCが成功を収めた原因と強さの分析、クルマ向け半導体不足が解消する見込み、日本の半導体政策と問題点、微細化競争から脱落したインテルの分析などである。興味をそそられる内容が並ぶ。いずれも数字や技術で裏付けながら理詰めで持論を展開しており説得力がある。
      
 日本の半導体産業を巡る動きについては、「歴史的に経産省と革新機構、政策銀が出てきた時点でアウト」「ラピダスが2027年までに2nmの半導体を作るのは到底無理でミッション・インポッシブル」「日本の強みである装置と材料が危ない」などと手厳しい。日本以外についても、「半導体強化に狂奔する半導体メーカーと各国・各地域の政府は、ハーメルンの笛吹き男に従うネズミに見える」「クルマ向け半導体も絶望的に不足は続く」と主張する。

書籍情報

半導体有事

湯之上 隆、文春新書、p.256、¥1045

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。