横田英史の読書コーナー
サピエンス減少〜縮減する未来の課題を探る〜
原俊彦、岩波新書
2023.5.20 12:58 am
国連の人口推計(UNWPP22)を基に、世界の人口が今後どのように推移するかを、人口学者が論じた書。少子高齢化が進み人口減少フェーズに入った日本を尻目に、サブサハラ・アフリカを中心に世界の人口は増え続けているが、いずれ転換期を迎えてピークを打つ。国連推計の楽観的な前提が崩れれば世界の人口は21世紀半ばに急激に減少を始め、人類(ホモ・サピエンス)は300年ほどで滅亡の可能性さえあるという。出生・死亡・移動の未来を予測し、人口の推移という関心の高いテーマに対して興味深い論点を提供する。フラクタル性のあるコーエンの絶滅曲線の存在を知ったのも収穫だった。少子化対策が喫緊の課題となるなか、本書はお薦めの1冊である。
縮減する社会では、縮減する需要、格差の拡大、自然環境や生活環境の悪化、人口移動の制限などの諸問題が発生し、人口増を前提にした政治と経済、文化、社会システムは再構築を迫られる。しかし、人口減少を止めることは容易ではない。生産力の飛躍的発展を通じて人類は長寿化する一方、出生力をコントロールする自由を得た結果が人口学的不均衡である。早急な解決を求めれば、社会は全体主義的で優生学的な方向に進み、社会的連帯の基盤は失われ、社会の崩壊につながる危惧さえあるとする。
解決には、人口転換の後発地域と先発地域とのタイムラグを生かし、後発地域の人口転換を加速する一方、先発地域の少子高齢・人口減少のスピードを可能な限り遅らせるしかない。筆者は、富の再分配の再定義とグローバルな意思決定が不可欠になると繰り返し強調する。しかし今、ロシアのウクライナ侵略や専制主義国家による覇権主義的な行動など、グローバルな連帯とかけ離れた状態にある。人類の未来は暗いと言わざる。
書籍情報
サピエンス減少〜縮減する未来の課題を探る〜
原俊彦、岩波新書、p.180、¥968