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横田英史の読書コーナー

半導体超進化論〜世界を制する技術の未来〜

黒田忠広、日経BP 日本経済新聞出版

2023.5.29  1:07 am

 東大の半導体研究・開発センターd.labの責任者による日本の半導体産業の未来予想図。総花的に半導体産業を扱う書籍が多いなかで、半導体の微細化や半導体工場の話は横に置き、d.labの役割である消費電力低減や開発効率向上といった技術面に焦点を絞ったところに本書の特徴がある。半導体開発のオープン化、半導体を必要とする技術者が手軽に開発を手掛けるようになる「半導体の民主化」にも触れる。半導体を巡る議論が盛り上がるなか、読んで損のない1冊である。
     
 本書は、ラピダス発表の晩餐会を取り上げるプロローグに始まり、「産業と市場、技術のパラダイムシフト」「汎用から専用へ、AI専用チップの台頭」「集積技術の2次元から3次元への変化」「半導体のアジャイル開発」といった話題をカバーする。要約すれば、「エネルギー効率が10倍高い専用チップ(とりわけAIチップ)を、10倍の効率で開発するとともに、3次元集積技術でムーアの法則を超える」のが日本の半導体の生きる道ということになる。日本に逆転のチャンスが残されているとする。ちなみに国策半導体会社のラピダスとは補完関係にあるとするが、冒頭で設立パーティの様子を紹介するにとどまる。
       
 気になった点もある。ダブり感のある文章や、名言や比喩が頻繁に登場する書き口は、筆者の個性が出ているともいえるが、散漫な印象で好き嫌いが分かれそうだ。専用チップの重要性を連呼するなら、「Domain Specific Architecture」のパターソンやヘネシーに触れないのも片手落ちだろう。加えるに、新書サイズにもかかわらず2段組で読みづらいコラム欄やガバナンス不足を感じさせる内容の重複など、編集者はもう少し読み手に配慮すべきだった。内容が悪くないだけに残念である。

書籍情報

半導体超進化論〜世界を制する技術の未来〜

黒田忠広、日経BP 日本経済新聞出版、p.248、¥1100

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。