横田英史の読書コーナー
イーサリアム〜若き天才が示す暗号資産の真実と未来〜
ヴィタリック・ブテリン、ネイサン・シュナイダー編、高橋聡・訳、日経BP
2023.6.4 7:59 pm
暗号資産プラットフォーム「イーサリアム」の設計思想を、創設者の一人が解説した書。イーサリアムは、ブロックチェーンベースの暗号資産(仮想通貨)で、時価総額はビットコインに次ぐ規模である。契約を自動的に実行する「スマートコントラクト機能」を備えるなど、スマートシティの基盤としても期待がかかる。社会基盤という大きな枠組みを構築する著者の構想力に驚かされる。社会のデジタルインフラをデザインする過程を知ることのできる書である。
「メカニズム=アルゴリズム+インセンティブ」といった記述など、筆者はイーサリアムの設計哲学だけではなく、目的や市場、ガバナンス、役割、機能、有用性、可能性などについて持論を展開する。POW(プルーフ・オブ・ワーク)やPOS(プルーフ・オブ・ステーク)、DAO(分散型自律組織)、スマートシティなどにも言及する。
ブロックチェーンが作る街を「クリプトシティ」と呼び、暗号資産やNFT(非代替性トークン)、DAOなどで構成する。現在のスマートシティは中央集権的ガバナンスで透明性やプライバシ保護に本題を抱える。ブロックチェーンの技術を用いれば、オープンな直接参加型の仕組みを構築できるとする。ブロックチェーンは「ルーブ・ゴールドバーグ・マシン」と呼ばれ、「普通にすれば簡単にできることを、あえて複雑にする」と揶揄されることもあるが、スマートシティがキラーコンテンツなのかもしれない。
残念なのは、ブログの記事を集めたこともあって内容が断片的で、全体像をつかむ目的には向かないこと。この1冊を読めばイーサリアムの設計思想がわかるとは言いづらい。内容を構造化すれば、もう1ランク上の出来栄えになっただけに惜しい。ちなみに巻末に「イーサリアムホワイトペーパー」を収録しているので資料性は高い。
書籍情報
イーサリアム〜若き天才が示す暗号資産の真実と未来〜
ヴィタリック・ブテリン、ネイサン・シュナイダー編、高橋聡・訳、日経BP、p.440、¥2420