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横田英史の読書コーナー

陰謀論〜民主主義を揺るがすメカニズム〜

秦正樹 、中公新書

2023.6.14  8:06 pm

 新型コロナワクチン接種による不妊説、ビル・ゲイツによるマイクロチップ注入説、Qアノンなど陰謀説を信じる人は、どういった社会的な傾向をもつのかを調査に基づいて分析した書。タイトルからは陰謀論とは何か、どのようなプロセスで発生するのかを論じている印象を受けるが少し異なる。筆者は、日本における陰謀論受容の現状を定量的に検証し理解するところに焦点を絞っている。検証結果には意外なものもあり面白く読める。
     
 陰謀論を信じる人は、まったく別の種類の陰謀論を信じる傾向にあるという。特に政治にまつわる陰謀論は、情報が完全に明らかにはならず、断片的にしか掴むことができない。「一般人は決して触れることのない秘密の集団の企みによって政治的/社会的決定がなされている」という考え方が、政治的な陰謀論を拡散させる。例えば米国連邦議会襲撃などにつながり、民主主義を危うくする。
     
 本書によると、自分が普通だと認識している人ほど平均から外れた意見に巻き込まれやすく、政治や社会などの公共的な関心が高い人のほうが陰謀論に引っかかりやすい。自分の生活中心で政治や社会び関心を持たない人のほうが陰謀論を信じにくい傾向がある。陰謀論に惑わされない要諦はバランス感覚で、政治について「そこそこ」の関心や知識を持ち、「そこそこ」の気持ちで支持政党を応援することだとする。

書籍情報

陰謀論〜民主主義を揺るがすメカニズム〜

秦正樹 、中公新書、p..272、¥946

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。