Electronics Information Service

組込みシステム技術者向け
オンライン・マガジン

MENU

横田英史の読書コーナー

大規模言語モデルは新たな知能か〜ChatGPTが変えた世界〜

岡野原大輔、岩波科学ライブラリー

2023.7.2  8:21 pm

 大規模言語モデルの技術的内容について、数式を用いず一般人にも分かりやすく解説した書。ChatGPT関連の書籍は次から次へと登場しているが、ビジネス面や使い方のノウハウ、法的問題などに偏っており、技術面を扱った解説書は少ない。その意味で本書は、大規模言語モデルの歴史と現状、将来に言及しており貴重である。
     
 著者はプリファード・ネットワークスの共同創業者で、第一線で活躍するAIの研究者。それだけに、可制御でもなく、可観測でもなく、設計者でさえ想定外の働きを獲得してしまう大規模言語モデルの凄さや空恐ろしさが本書からはよく伝わってくる。「こうしたシステムの使い方や限界、危険性を正しく認識できていない。専門家さえ把握できていてない」と警鐘を鳴らすと同時に、「投資対効果を前もって予測できる大規模言語モデルほどリスクの少ない研究はそう多くない」と語る。
     
 なぜコンピュータで言語を扱うことが難しかったのか、大規模言語モデルがなぜ言語を扱う能力を獲得できたのか、もしくはできていないのかについて論じる。大規模言語モデルの仕組みを研究することで、人が言語をどのように理解し、考えるかを理解できるかもしれないと語る。人は異なる知識をもった存在によって、初めて自分たち自身を理解できるのかもしれないとする。
     
 筆者は、学生時代に言語モデルの研究に携わっていたこともあり、内容に深みがある。このあたりは、記号接地問題など共通の話題が多い「言語の本質」(今井むつみ、秋田喜美)を併せて読むと理解が進むだろう。あとがきで筆者は、本書の企画は2月中旬に立ち上がり、初稿は2週間で書き上げたことを明らかにしているが、その勢いは本書を読むとよく分かる。136ページとコンパクトな書なので、1日もあれば読み終えることができる。お薦めの1冊である。

書籍情報

大規模言語モデルは新たな知能か〜ChatGPTが変えた世界〜

岡野原大輔、岩波科学ライブラリー、p.136、¥1540

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。