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横田英史の読書コーナー

メディアの生成〜アメリカ・ラジオの動態史〜

水越伸、ちくま学芸文庫

2023.7.9  6:33 pm

 米国におけるラジオのメディアとしての発展を、技術や産業、制度・制作、文化などの切り口で分析した書。ラジオの歴史を通してメディアの将来像を予測する。将来像といってもかなり限定的。本書は、放送大学の「メディア論」で主任講師を務める筆者が、東大在学時に書いた修士論文(1987年)をベースに1993年に出版した書を文庫本化したもの。当然ながらインターネットに関連するWebやSNSなどのメディアには触れていない。
      
 本書は、20世紀初頭から半ばまでの米国におけるラジオの動向を通してメディアの地殻変動をカバーする。ラジオはパソコンやVRのようにサブカルチャーやカウンターカルチャーの匂いがするメディアであり、電信や電話、郵便とは異なるインパクトをメディアに与えた。それはテレビなどの後続メディアの進展にもつながったという。
      
 面白いのは新聞や雑誌、電話・電信といった先行メディアにはないラジオの特性を分析したところ。具体的には、ラジオはハードウェアが先行し、ソフトウェアが追従する流れを生み出し、これにテレビも追従したとする。新しいメディアは既存メディアの延長線上に位置づけられ、社会的に共有される。ラジオも当初は電信・電話のアナロジーとして捉えられたが、大衆消費社会が展開するなかでエンターテインメントやニュースをブロードキャストするメディアとしての可能性を見出され急速に家庭に普及したとする。
       
 著者は、ラジオやテレビなどの黎明期を古い資料をもとに追っており、NCRやGE、AT&T、NBC、ウェスティングハウスといった企業の勃興期の動静についての情報は評者にはとても勉強になった。

書籍情報

メディアの生成〜アメリカ・ラジオの動態史〜

水越伸、ちくま学芸文庫、p.448、¥1540

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。