Electronics Information Service

組込みシステム技術者向け
オンライン・マガジン

MENU

横田英史の読書コーナー

関東軍〜満洲支配への独走と崩壊〜

及川琢英、中公新書

2023.7.25  7:34 am

 独断専行で暴走する軍隊という印象が強い関東軍について、成立から崩壊までを丹念に追った歴史書。本書の主題は三つ。①関東軍が置かれた制度的な環境を明らかにし、暴走に至る構造的な背景をあぶり出すこと、②軍司令官や参謀長、参謀たちの個人的な特性の影響を明確にすること、③満州の現地勢力と関東軍との関係について論じること、である。関東軍については、張作霖爆殺事件やノモンハン事件、満州事変への関与など、断片的でぼやっとした知識しかなかったので、全体像を描く本書はそれなりに役立ち感があった。
       
 残念なのは、あまりに淡々とした筆致で、メリハリに欠け全体に盛り上がりに欠けるところ。類書に比べたときに、本書を読む価値がどこにあるのかを明確に示して欲しかった。本書が取り上げた時期については近年研究が進展しており、朝鮮やモンゴル、アメリカなどの動向を踏まえた戦争の多彩な側面が明らかになっているという。筆者も冒頭で「近年の新しい研究によりつつ」と語っているので、新しい部分を明確に打ち出すべきだった。少なくとも、何が史実であり、何が論点になっているかを明確に示して欲しかった。

書籍情報

関東軍〜満洲支配への独走と崩壊〜

及川琢英、中公新書、p.320、¥1012

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。