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横田英史の読書コーナー

ChatGPTの頭の中

スティーヴン・ウルフラム、高橋聡・訳

2023.8.6  7:41 am

 数式処理システム「Mathematica」で知られる米Wolfram Researchの創設者で理論物理学者の筆者の手による「ChatGPT本」。ChatGPTがどのように動くのか、なぜ動くのかを、ニューラルネットの原理から説き起こす。内容はかなり技術的で濃い。新書判のため版面(紙面)が狭く図版が見づらいのは残念だが、分かりやすさに配慮していることは感じられる。
      
 それにしても、専門レベルの高い翻訳書がChatGPT登場から半年あまりで出版されるのは驚きである。この書評で取り上げた「大規模言語モデルは新たな知能か」と併せて読むと、生成AIが第一線の研究者に与えた衝撃の強さが伝わってくる。ChatGPT関連で有象無象の書が出版されるなか、キャラが立った刺激的な本書はお薦めである。
      
 筆者は、ニューラルネットワークが人間の脳のニューロンとほぼ同じ数の結合部を備えると、人間の言語を生成する処理を驚くほど見事にこなせるというのは発見であり、人間が言語処理をどのようにこなしているかの「理論の確立」に近づいたと語る。簡単明瞭なニューラルネット構造でさえ、人間の言語とその背景にある思考の「本質を捉える」ことに成功している、言語には私たちが分かっている以上に理解しやすい構造があり、そのような成り立ちを説明するシンプルな規則が存在するかもしれない、と説く。
        
 本書を読むと、「小論文の執筆がこれまで考えられていたより計算処理的に浅い問題だった」「科学上のおそらく驚愕の大発見と考えるしかない」「言語の法則や思考の法則という、人間にとって最大級の発見につながる可能性がある」などと、第一線の専門家が心底驚いているのが伝わってくる。

書籍情報

ChatGPTの頭の中

スティーヴン・ウルフラム、高橋聡・訳、p.168、¥1012

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。