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横田英史の読書コーナー

鉄道旅行の歴史〈新装版〉〜19世紀における空間と時間の工業化 単行本〜

ヴォルフガング・シヴェルブシュ、加藤二郎・訳、法政大学出版局

2023.8.10  6:18 pm

 蒸気機関の発明から生まれた鉄道というメディアが、社会に与えたインパクトを標準時の制定や百貨店の興隆、鉄道事故が精神医学や法律に与えた影響、都市計画や街並みの変化などの切り口で多角的に分析した書。鉄道によって生じた自然世界(時間や空間・距離)の縮小は、インターネットが社会に与えた影響のアナロジーとなっているのも興味深い。交通機関の発展によって経済的流通が速まるほど、モノにより多くの商品的価値を授けることにつながったとする。
   
 線路の敷設や客車の構造など鉄道を取り巻く環境が、欧州と米国で大きく異なっていることを、技術・経済・国民性の切り口で明らかにする。例えば米国の線路は地形に逆らわずに敷設されるが、ヨーロッパは直線状である。客車の通路は米国の通路は真ん中に設けられる。ヨーロッパでは個室が好まれ、通路は客車の端に置かれるが、密室性が高く犯罪につながったとする。
    
 19世紀の旅や鉄道関連のエピソードが数多く盛り込まれており、珍しい写真や挿絵とともに楽しく読める。1982年に出版された書の復刻版だが、放送大学の「メディア論」が参考文献として取り上げているのもよく分かる。メディア好きや歴史好きにお薦めの書である。

書籍情報

鉄道旅行の歴史〈新装版〉〜19世紀における空間と時間の工業化 単行本〜

ヴォルフガング・シヴェルブシュ、加藤二郎・訳、法政大学出版局、p.282、¥3520

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。