横田英史の読書コーナー
検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?
小野寺拓也、田野大輔、岩波ブックレット
2023.9.3 6:41 pm
SNSで「ナチスは良いこともした」「ヒトラーにも優しい心があった」といった言説が定期的にバズっているらしい。日本経済新聞も、2020年10月24日付の記事「SNSで揺らぐ平和意識 戦争容認、簡単に『いいね』」で取り上げた。本書は、ナチス研究の専門家がこうしたSNS上での言説に対して、歴史的背景(コンテクスト)や最新の研究成果に基づき丹念に反論したもの。タモリの「新しい戦前」という言葉に代表される社会の空気に惑わされず、何をきっちり押さえるべきかについて論じる。
ナチスといえば、ヒトラーやホロコーストのほかに、以下を思い浮かべる方も少なくないだろう。アウトバーンを作った、大衆車フォルクスワーゲンに取り組んだ、第一次世界大戦で疲弊したドイツ経済を立て直した、失業率を低下させた、などである。評者もその一人である。さらに本書では、歓喜力行団でだれでも旅行に行けるようした、有給休暇を拡充した、禁煙政策を進めた、先進的な家族政策や環境政策をとった、といった例も挙げる。
こうした例は事実関係として誤っていたり、事実関係としては間違っていないものの歴史的文脈の中での理解が不十分というのが、筆者らが本書を執筆した動機だという。本書では、これらの歴史的事実の一つひとつに、①ナチスのオリジナルの政策だったのか、②ナチ体制においてどのような目的を持っていたのか。③肯定的な結果を生んだのか、という3つの観点から議論を進める。
筆者は、全体像や文脈が見えないまま個別の事象について誤った判断を下したり、事実から意見へと飛躍する危うさを指摘する。歴史修正主義が影響力を持つなか、多角的に歴史を見ることの大切さを説くことによって、社会の免疫力を高めたいとする。
書籍情報
検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?
小野寺拓也、田野大輔、岩波ブックレット、p.120、¥902

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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