横田英史の読書コーナー
世界はシンプルなほど正しい〜「オッカムの剃刀」はいかに今日の科学をつくったか〜
ジョンジョー・マクファデン、水谷淳・訳、光文社
2023.9.30 1:42 pm
14世紀の神学者・哲学者である英国オッカム村のウイリアムが唱えた「オッカムの剃刀(かみそり)」が科学に与えた影響を紹介した書。ウイリアムスは宗教から科学を分離することに成功し、その思考法は科学における幅広い領域に影響を与えた。18世紀には「不必要な要素を増やさない」「冗長さや余分な複雑さを削ぎ落とす」という考え方は、科学の枠組みに深く組み込まれ意識されることはほぼなくなったという。
量子生物学者の創設者である筆者は、ウイリアムの生涯だけではなく、コペルニクスやケプラー、ガリレオ、ニュートン、アインシュタインへと連なる科学史を「シンプルさ」の切り口で綴る。本書の扱う範囲は天文学から始まり、古典力学、生物学、進化論、電磁気学、相対性理論、量子力学などと幅広く、科学の歴史に興味のある方にお薦めの1冊である。
興味深く読んだのは、20世紀で最も大きな影響力を及ぼしながらも、世間はほとんど知られていない物理学者エミー・ネーターの話。評者はそれなりに科学史に関する書籍を読んできたが、エミー・ネーターはまったく知らなかった。物理学で最も美しい概念と呼ばれる「ネーターの定理」は、対称性にはそれに対応する保存則が一つ成り立つというもの。例えば時間的対称性にはエネルギー保存則、並進対称性には運動量保存則、回転対称性にはニュートンの第3法則が対応するという。
筆者が提唱する思考法「オッカムのポケット剃刀」も面白い。物事の説明に必要な単語(本書では機能語)の数を数えて、余分な単語が一つ増えるたびに重視する確率を2分の1ずつ下げるというもの。こうすることで、迷うことなく正しい判断に近づける。
書籍情報
世界はシンプルなほど正しい〜「オッカムの剃刀」はいかに今日の科学をつくったか〜
ジョンジョー・マクファデン、水谷淳・訳、光文社、p.488、¥2860