横田英史の読書コーナー
科学技術の軍事利用〜人工知能兵器、兵士の強化改造、人体実験の是非を問う〜
橳島次郎、平凡社新書
2023.10.18 1:55 pm
どは民生での進歩した技術が軍用に転用された。両者の境界はどんどん曖昧になり、デュアルユースが叫ばれる。さらに、ここに来てAIの急進展である。筆者は、科学技術の軍事利用を倫理的にどのように判断すべきか、どのように折り合いをつけるべきかを論じる。歴史的経緯を踏まえつつ、民生利用と軍事利用の線引きの現状を紹介する。
本書は大きく2つのセクションに分かれる。前半では戦争と科学技術の関係について論じる。古代ギリシアに始まり第1次・第2次世界大戦、米ソ冷戦、湾岸戦争、日本では731部隊などに言及する。後半では科学技術の進展に各国はどのように対処しているかについて具体的事例を紹介する。AI兵器はどこまで許されるか、兵士の心身の強化改造の是非、軍による人体実験の現在と課題を論じる。
有用なのはフランスと米国の事例。特にフランスの事例は「人権の国」の面目躍如だ。フランスの軍事省防衛倫理委員会が出した「AI兵器の開発」と「兵士の心身強化改造技術の開発」に関する意見書は示唆に富む。例えばAI兵器では、人間の指令や関与なしに敵を識別し、殺傷を伴う攻撃を行う能力を備える「致死性自律兵器システム(LAWS:Lethal Autonomous Weapon System)」を議論の中心とする。致死性自律兵器システムについては、人間の責任という大原則のもと、5つの判定基準を設ける。
米Googleや米Amazonの従業員がAIの軍事利用に反対しデモを行ったのは記憶に新しい。日本学術会議も、大学が軍事研究に関わることに反対声明を出した。本書が取り上げるポイントは、平時にこそ、時間をかけてきっちり議論すべきだろう。今の時代にお薦めの1冊である。
書籍情報
科学技術の軍事利用〜人工知能兵器、兵士の強化改造、人体実験の是非を問う〜
橳島次郎、平凡社新書、p.208、¥1034