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横田英史の読書コーナー

言語哲学がはじまる

野矢茂樹、岩波新書

2023.12.2  12:30 am

 Wikipediaによると言語哲学とは大きく2つに分類される。一つは、言語の構造・意味・使用法・レトリック等についての哲学。もう一つは、言語こそが先立つものであり、言語の理解なくして哲学の問題は解決されえないとする哲学。本書は、どちらかというと後者について、3人の哲学者(フレーゲ、ラッセル、ウィトゲンシュタイン)が展開した議論を解説する。自己満足に浸るような難解な文体(いわゆる悪文)で論じられることの多い哲学を、軽めの文体で分かりやすく紹介しているのが本書の特徴である。帯の「予備知識はいりません」に偽りはなさそうだ。
      
 本書は、どうして言語は新たな意味を無限に作り出せるのか、「ミケは猫だ」とはどういう意味なのか、語の意味よりも文の意味が優先する(語は文との関係においてのみ意味をもつ)、述語を関数として捉える、文脈原理、合成原理、といった議論を展開する。こう書くと難解な雰囲気が漂うが、筆者は繰り返しを厭わずに基本的に戻ってくれるので、読者は道に迷うことなく読み進むことができる。
      
 興味深いのは、言語の根源に迫った本書で、大規模言語処理や生成AIに通じる議論が展開されているところ。書店の新書分野でベストセラーになっている理由の一つかもしれない。

書籍情報

言語哲学がはじまる

野矢茂樹、岩波新書、p.270、¥1100

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。