横田英史の読書コーナー
実験の民主主義〜トクヴィルの思想からデジタル、ファンダムへ〜
宇野重規、若林恵、中公新書
2023.12.12 6:18 pm
今や民主主義は「死んだ」「壊れた」「奪われた」「失われた」などと言われる。権威主義が幅を利かせ民主主義が危機的な状況にある現在、民主主義の新たな姿を「ファンダム(fandom)」のなかに見出した書。ファンダムとは、ファン(fan)と領国(kingdom)を組み合わせた造語である。アイドルや趣味、アニメ、スポーツ、音楽、ゲームなどのファンによる「推し」活動や文化を意味する。このファンダムの行動パターンが、伝統的な政党に代わる人々の組織化の可能性につながると主張する。
本書は、編集者の若林が政治学者の宇野に質問する形式をとる。フランスの思想家トクヴィルの思索を手ががりに、民主主義をアップデートする道筋を提示する。両者の丁々発止のやり取りは実に刺激的で、興味深い視点と論点を提供してくれる。民主主義の未来に希望を感じさせる書である。
本書の特徴は、民主主義を政党や選挙ではなく、行政権に焦点を当てて論じているところにある。デジタル化の進展による双方向性が、行政の在り方に影響を与え、供給側の論理で作られた旧来の政策は破綻を来したとする。デジタル社会において代わりになるのがファンダムである。ファンダムがプラットフォームとしての行政権を利用しながら社会を変える。市民の「何かできる」「何かしたい」をモチベーションに、その場にいる人たちが「できること」を紡ぎ合わせて行動する。ファンダムによる民主主義では、応援することも立派な参加であり、貢献となる。
終わりをデザインするのではなく、始まりをデザインすることが重要という指摘も面白い。完成形をデザインする建築家ではなく、育ってきた植物に応答的に反応せざるを得ない庭師的な行動パターンが重要になる。
書籍情報
実験の民主主義〜トクヴィルの思想からデジタル、ファンダムへ〜
宇野重規、若林恵、中公新書、p.320、¥1100