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横田英史の読書コーナー

人類の起源〜古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」〜

篠田謙一、中公新書

2023.12.26  6:28 pm

 DNAやミトコンドリアの情報に基づき人類の進化の過程を明らかにする進化人類学の入門書。古代DNA研究の最新の知見に基づいて人類の起源をたどる。知的好奇心を満たされる良書である。2023年の新書大賞の2位になったのも納得できる。旧人類であるネアンデルタール人やデニソワ人とホモ・サピエンスとの血縁関係、30万年前にアフリカ中西部で誕生した人類がどのような経路・過程をたどって世界に拡散したのかなど、壮大な歴史絵巻を描く。ロマンに満ちていて、評者のような古代史好きには堪らない。
     
 考古学は発掘物に基づき古代史を描くが、どうしても史料に限りがあり歴史の目は粗くならざるを得ない。想像を逞しくして粗い目を補うことになる。一方の進化人類学は、人骨に残されたDNAを解読し、ゲノム(遺伝情報)を手ががりに人類の足跡を“定量的”にたどることができる。遺伝情報をもつDNAを複製して増幅するPCR技術の進展で、かけらレベルの微量なDNAからも定量的な情報を得られるようになり古代史を大きく塗り替えた。
     
 ホモ・サピエンスとネアンデルタール人、デニソワ人という3種の人類は数十万年にわたって共存し、互いに交雑することによって遺伝子を交換した。この結果、アジア人とヨーロッパ人には2.5%程度の割合でネアンデルタール人のDNAが混入しているという。例えば体色や体毛に関する遺伝子は、ネアンデルタール人からホモ・サピエンスに受け継がれた。またユーラシアの環境に適応したネアンデルタール人との交雑が、ホモ・サピエンスの寒冷気候への適応を可能にしたという。
     
 米国大陸の先住民についての定説が覆った話も興味深い。これまでは、現代の先住民がもつヨーロッパ人と共通の遺伝要素が、コロンブス以降の混血によってもたらされたと考えられていた。これが古代DNA研究によって、はるか昔に西ユーラシアから渡ってきた人類に由来することが明らかになったという。このほか縄文人、弥生人、アイヌ民族、琉球民族の話など興味は尽きない。

書籍情報

人類の起源〜古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」〜

篠田謙一、中公新書、p.320、¥1056

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。