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横田英史の読書コーナー

謝罪論〜謝るとは何をすることなのか〜

古田徹也、柏書房

2023.12.29  6:31 pm

 謝罪とはなにか、謝罪の効果や機能とは何か、不適切な謝罪とはどういったものかなどについて、哲学的な考察を加えた書。謝罪することによって伝えられる責任、償い、約束、後悔、誠意などについて多角的に論じる。「哲学的」と言うと小難しい感じを受けるが、電車で他人の足を踏んだときや他人の家で花瓶を割ったときの謝罪にはじまり、テレビドラマ「半沢直樹」「北の国から」や小説などを題材として取り上げ、むしろ下世話な感じさえする。肩のこらない内容でお薦めである。
     
 本書のカバー範囲は広い。謝罪しようとするときに具体的には何をしようとしているのか、相手に謝罪を要求するときは何を求め、何を願っているのか、不適切な謝罪や不必要な謝罪を避けるにはどうすれば良いのか、謝罪のマニュアル化の問題などを紹介する。医療事故が起きた場合に“sorry”と被害者の関係者に語りかける“sorry works運動”の話は興味深い。被害者の関係者に誠意(共感)を示すことが、言い争いや見解の齟齬といった困難な状況を多少なりとも改善でき、医療紛争の回避や解決につながるという。
     
 「誤解を招いたとすればすみません」「ご不快な思いをさせて申し訳ございません」といった謝罪や「遺憾」など“謝罪”会見で頻繁に耳にする言葉は、そもそも謝罪の要件を満たしていないと断ずる。その場しのぎの、政治家の空疎でお粗末な謝罪を連日のように聞かされる現在、謝罪の全体像を明らかにする本書は一読に値する。

書籍情報

謝罪論〜謝るとは何をすることなのか〜

古田徹也、柏書房、p.304、¥1980

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。