横田英史の読書コーナー
AIファースト・カンパニー〜アルゴリズムとネットワークが経済を支配する新時代の経営戦略〜
マルコ・イアンシティ、カリム・R・ラカーニ、渡部典子・訳
2024.1.12 6:37 pm
よくあるDX本に、AIとデータサイエンスのエッセンスをトッピングした書。ハーバード・ビジネス・スクールの教授がAIを前提にした企業経営のフレームワークを提示する。データ、アナリティクス、AIを動力源にデジタルネットワークを活用する「デジタル企業」とは何か、どうすればなれるのか、企業や組織のリーダーはどのように対応し変革を進めるべきかを論じる。
AIファースト・カンパニーではスキルやケイパビリティ、カルチャーを構築するために、リーダーの継続的かつ全面的なコミット、賢明な一意専心のリーダーシップが不可欠とする。ただし過度な期待は禁物である。筆者の主張は「データ・アナリシスやAIで活用できるように、情報システムを全社最適で整備しなさい」なので、普通のDX本と大きな隔たりはない。AIファーストの響きに期待し過ぎると失望するかもしれない。
生成AI以前に出版されており、弱いAIを前提にしているところにも注意が必要である。生成AIが柔軟性に富んでいる点を考えると、いわゆるDX本は根本的な見直しが必要になりそうだ。本書は2020年1月の出版だが、技術革新の速さもあって少し古さを感じる。
筆者は多くの事例を挙げて、AIファーストの必然性を説く。アマゾンやウォルマート、マイクロソフト、エアビーアンドビー、ネットフリックスといった米国企業のほか、中国のアントフィナンシャルを、弱いAIを迅速かつ広範囲に展開し、重要な業務タスクの自動的に実行している企業として取り上げる。各社で共通するのは、AIを中核に置き、人間の労働力の代わりにコードで成り立つ組織を構築したこと。価値提供のクリティカルポイントから人間を外し、周辺に位置づけた。業務固有の知識や専門性よりも、ネットワーク効果や学習効果を重視する。
書籍情報
AIファースト・カンパニー〜アルゴリズムとネットワークが経済を支配する新時代の経営戦略〜
マルコ・イアンシティ、カリム・R・ラカーニ、渡部典子・訳、p.432、¥2640