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横田英史の読書コーナー

冷戦史(上)〜第二次世界大戦終結からキューバ危機まで〜

青野利彦、中公新書

2024.1.18  6:40 pm

 1945年頃から1990年頃にかけて、米国を中心とした西側陣営とソ連を中心とした東側陣営とが対立した「冷戦」を扱った書。冷戦終結後に利用可能になった旧ソ連や東欧の文書などに基づく最新の研究成果を取り入れ、冷戦の複合的な性格・構造を明らかにする。上巻はドイツ分断、朝鮮戦争、台湾海峡危機、日本占領を巡る駆け引き、キューバ・ミサイル危機などをカバーしている。
     
 本書を読むと、現在生じている多くの国際問題の出発点が冷戦にあることが分かる。冷戦によって生じた構造が紆余曲折を経て現在につながっている。「歴史は繰り返さないが韻を踏む」という言葉があるが、冷戦時代と現在の混沌とした状況に類似した構造(韻)を、本書からは読み取れる。
      
 例えば戦略的な要衝や軍事基地、戦略資源の確保、同盟の形成といった地政学的な利益を追求する構造はよく似ている(冷戦時のイデオロギーの対立は現在では姿を消した)。1次と2次の台湾海峡危機を生んだ毛沢東の暴走・過激化が、習近平の姿とオーバーラップするのも不気味である。
     
 本書を読むと、断片的には頭に入っていた歴史的出来事を、俯瞰した視点で歴史のなかで位置づけて見ることができる。新書らしい啓蒙書に仕上がっておりお薦めである。

書籍情報

冷戦史(上)〜第二次世界大戦終結からキューバ危機まで〜

青野利彦、中公新書、p.288、¥990

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。