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横田英史の読書コーナー

リサーチのはじめかた〜「きみの問い」を見つけ、育て、伝える方法〜

トーマス・S・マラニー、クリストファー・レア、安原和見・訳、筑摩書房

2024.1.31  2:11 pm

 研究テーマを見つける方法を学生や企業・研究機関向けに懇切丁寧に説明した書。米スタンフォード大学教授と米ブリティッシュ・コロンビア大学教授が18年かけて磨いたノウハウを、手取り足取りで事細かに伝授する。研究テーマを対象とした書だが、ちょっとした報告書や論文などにも応用可能である。手間ひまをかけて研究テーマを探るので、その分だけ時間がかかりそうなだが、一度マスターすればそれなりの時間で済みそうだ。評者のような物書きや、ちょっとしたレポートを書く機会の多い方は一度試すのも悪くない。
       
 筆者は、研究テーマを見つけるためのポイントをいくつか挙げる。例えば「テーマを絞り込むのをやめて、まず小さな問いを立てる」「問いに形容詞や副詞があったら要注意」「1ページも書かないうちにタイトルをつける」などである。筆者が繰り返し強調するのが、頭に浮かんだアイデアを「書くこと」「メモをとること」である。はじめは支離滅裂でも一貫性を欠いていても気にしない。繰り返し振り返ることで、ボンヤリしたアイデアをクリアにすることができる。教師やメンター、友人、研究仲間といった反響板に繰り返し話すことも有効だ。いまならChatGPTを使った壁打ちといったところだろう。
        
 専門用語や仲間内の言葉で誤魔化さないという指摘も良い。「言葉を縮めずに丁寧に説明する」「専門用語を普通の言葉に翻訳する」訳だが、実はこれが難しい。ちなみに本書は東大本郷キャンパスの生協書籍部で、この数か月ベストセラー入りしている。納得である。

書籍情報

リサーチのはじめかた〜「きみの問い」を見つけ、育て、伝える方法〜

トーマス・S・マラニー、クリストファー・レア、安原和見・訳、筑摩書房、p.336、¥2200

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。