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横田英史の読書コーナー

「販売の神様」といわれて〜評伝 神谷正太郎〜

四宮正親、文眞堂

2024.2.12  9:28 am

 「販売のトヨタ」「技術の日産」とよく言われた時代がかつてあったが、その「販売のトヨタ」の基礎を作った神谷正太郎の評伝。筆者は、日経新聞の「私の履歴書」をベースに、専門分野である自動車産業史を参照しながら筆を進める。足を使った取材で神谷の人物像を丹念に追うといった趣は皆無だが、日本の自動車産業の黎明期におけるトヨタのポジションを知ることができる。諸々勉強になる書である。
       
 筆者は、クルマを1台も売ったことのない神谷が、販売の神様と呼ばれるまでになった軌跡を追う。神谷の生い立ちから始め、三井物産への就職と失望、ロンドンでの商社設立と挫折、帰国して日本ゼネラル・モーターズへの就職と外資流ビジネスへの違和感、豊田自動織機への入社、豊田喜一郎との出会い、豊田自動車工業からトヨタ自動車販売の分離などを淡々とした筆致で綴る。
        
 自動車産業の自由化における外資との駆け引き、日産との販売競争、販売店戦略における日産との対比、自動車産業拡大のための先行投資など読みどころは多い。必要に応じて統計データで裏付けており、納得感は高い。神谷が、日本の自動車産業の黎明期に自動車学校や自動車保険会社、中古車販売店、観光開発会社などを設立していたとは寡聞にして知らなかった。

書籍情報

「販売の神様」といわれて〜評伝 神谷正太郎〜

四宮正親、文眞堂、p.228、¥2750

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。