横田英史の読書コーナー
計測の科学〜人類が生み出した福音と災厄〜
ジェームズ・ヴィンセント、小坂恵理・訳、築地書館
2024.2.25 9:34 am
英国のジャーナリストが、計測の歴史を時代背景を交えながら紹介した書。度量衡の統一が、庶民の不公平感をなくし社会秩序の醸成に役立ち、科学の進歩やグローバリゼーションを支えた。文字がぎっしり詰まった一見硬派な書だが、計測を巡るエピソード満載の楽しい読み物に仕上がっておりお薦めである。
ジャーナリストらしいフットワークを生かした見聞記も本書の特徴である。パリ国立公文書館ではかつてのメートル原器とキログラム原器、スウェーデンでは最初の温度計、エジプトではナイル川の水位を測ったナイロメーターを見学し感想をレポートする。英国ではメートル法に抵抗する活動ARMに参加して、標識にイタズラしたりする。ちなみに最初の温度計が今とは逆に、一番下が摂氏100度で氷点、一番上が摂氏0度で沸点だったというのは面白い。ナイロメーターは、洪水が発生する季節の水位によって、農作物の凶作/豊作を予測する建造物である。
メートル法の創造が、フランス革命と並行して進められ具体化したというのは初耳だった。フランス革命当時、庶民の不満の矛先は自由の侵害や宮廷ではなく、度量衡の混乱による不公平(同じモノでも価格が異なる)だったという。メートル法を広めたのが外交官のタレーランであり、メートルとキログラムの定着にナポレオンの征服が一役買った逸話を読むと、教科書からは読み取れない歴史の奥深さを感じる。
米国立標準技術研究所(NIST)による、ピーナッツバターやタバコ、クジラの脂肪、家庭ごみなど1200種類に及ぶ標準規格の作成には驚かされる。標準規格を策定することで、消費者による正しい比較を可能にする。このほか万歩計の逸話も身近なだけに面白い。万歩計は、登録商標でをもつ山佐時計計器のマーケティングキャンペーンで生まれた。そもそも1万歩には何の科学的根拠がないという。
書籍情報
計測の科学〜人類が生み出した福音と災厄〜
ジェームズ・ヴィンセント、小坂恵理・訳、築地書館、p.384、¥3520