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横田英史の読書コーナー

メディア考古学とは何か?〜デジタル時代のメディア文化研究

ユッシ・パリッカ、梅田拓也・訳、大久保遼・訳、近藤和都・訳、光岡寿郎・ 訳、東京大学出版会

2024.3.6  12:15 pm

 帯にある「メディア考古学を知り学ぶためのテキスト」に誘われて購入した書だが、正直なところメディア考古学の雰囲気にタッチする程度はできたものの、面白さを感じるレベルには到達できなかった。著者によると、「21世紀の芸術と人文学の革新的な学術領域としての可能性をもっている」らしいので、少々口惜しくもある。
      
 メディア考古学とは、古くなったり忘れ去られたりしたメディア技術(蓄音機や電信、タイプライター、初期のコンピュータなど)に着目し、過去に現代のメディアとの関係性を見出す試みを指す。あるいは、最新のメディアのなかに、古いメディアからの回帰を見出すことで、メディアの起源や発展などをより理解する試みである。未来のメディアをデザインするための青写真としても利用できる。評者が強い関心をもつ領域であり、切り口も悪くない。今後も注目したい分野である。
       
 翻訳者も書いてるが、「長い文章がうねるように続く」というだけではなく、翻訳の質にも問題があり、全体に意味が取りにくい。様々な論者の多様なアプローチを紹介するのは良いのだが、構造化や整理が不十分で何を言いたいのかピンとこない箇所が少なくない。それなりに高額の書なので、購入の際は注意が必要である。ちなみに原書は2012年発行で、翻訳に10年を要した労作である。ちなみに2012年は、日本でWindows8が登場したり、Kindleのサービスが始まったりした年でなの、本書の内容自体がそこそこ昔話となっているかもしれない。

書籍情報

メディア考古学とは何か?〜デジタル時代のメディア文化研究

ユッシ・パリッカ、梅田拓也・訳、大久保遼・訳、近藤和都・訳、光岡寿郎・ 訳、東京大学出版会、p.296、¥4180

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。