横田英史の読書コーナー
現代に生きるファシズム
佐藤優、片山杜秀、小学館新書
2024.3.15 12:21 pm
格差拡大など資本主義社会の抱える諸問題を解決する方策として台頭する「ファシズム」について、元外交官の佐藤優と政治・思想史学者の片山杜秀が対談した書。ファシズムの本質と危うさ、今後の展開について、日本とグローバルの両面から語り合う。格差や分断を解決する上で、ファシズムの効果は抜群であり、だからこそ警戒すべきと警鐘を鳴らす。多くの日本人がファシズムを独裁や全体主義と混同しており、日本人はあまりに無防備だと断じる。
資本主義国家で格差が拡大しており、社会の分断が進む。ファシズム国家は本質的に福祉国家であり、私益よりも公益を優先する。分けあえる財産があれば分け与え、国家を効率的に動かす。理屈よりも実践を重視する。格差拡大や分断といった社会問題を効率的に解決するにはファシズム的な政治手法が不可欠だとする。だからこそ、今の資本主義国家の状況は危ない。ファシズムとは何かを改めて考える必要があると強調する。
日本の戦前・戦中・戦後の分析は興味深い。日本は資源の乏しい「持たざる国」である。持てる国に対抗するには、国民や資源を束ね効率的に国家を運営しなければ歯が立たない。そのため軍人や指導者はファシズムに手を染めた。本当に持たざる国なら身の程をわきまえる。しかし日本は持たざる国としては中途半端に人口が多い。客観状況を無視して、主観的な願望で物事を決めていく念力主義がはびこったとする。
約5年前に上梓された書で、安倍政権が前提だったり、ロシアのウクライナ侵略や習近平の独裁体制が対象外だったりするが、対談の内容はかなり普遍的なのでさほど問題は感じない。ロシアは国境を「面で考える」など、多様な見方に触れることができて勉強になる。
書籍情報
現代に生きるファシズム
佐藤優、片山杜秀、小学館新書、p.285、¥924
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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