横田英史の読書コーナー
なぜ男女の賃金に格差があるのか〜女性の生き方の経済学〜
クラウディア・ゴールディン、鹿田昌美・訳、慶應義塾大学出版会
2024.3.18 12:24 pm
米国における過去100年のデータを用いた詳細な分析で男女間に賃金格差が生じる原因解明した書。キャリアを阻んできた制約と障壁は何だったかを、説得力をもって明らかにする。男女の賃金格差の原因は、「育児負担が女性に偏りがち」など紋切り型で語られるケースが少ない。しかし筆者は、残業が多い、厳しい納期を守らなければならない、日々変化する意思決定を下さなければならないといった「仕事の性質」が原因であり、性差ではないことをデータに基づいた明晰な分析で解き明かす。
筆者は1900年から2000年の100年を、5つのグループに分けて分析する。出産未経験率、未婚率、労働参加率、大学卒業率、初婚年齢、プロフェッショナル・スクール(医学、法学、歯学、MBA)卒業生に占める女性の割合などのデータを使った分析は説得力がある。5グループ間の変化を見ると、米国の女性たちが先輩の背中を見ながら人生の歩み方を変え、徐々に歩を進めてきたことがよく分かる。例えば女性の職業の比重は、司書・看護師・ソーシャルワーカー・事務職・教師から弁護士・経営者・医師・教授・科学者へと移ってきたという。
第1グループは家庭かキャリアかの選択を迫られた世代である。第2グループは仕事の後に家庭に入った。第3グループで家庭の後に仕事を選んだ。既婚女性も様々な働き方ができるようになり、筆者は「新しい女性の時代の予感」させる世代と位置づける。第4グループはキャリアを積んだ後に家庭に入った世代である。ピルの認可が大きな影響を及ぼし、「消費型・就職志向」から「投資型・キャリア志向」への変化を促した。第5世代はキャリアと家庭を両立させる世代で、出生数の増加が特徴である。
著者は2023年のノーベル経済学賞を受賞した米ハーバード大のクラウディア・ゴールディン教授。翻訳がこなれていて読みやすい。男女格差が大きな問題となっているなか、今後の改革に役立つ情報に富む本書はお薦めである。
書籍情報
なぜ男女の賃金に格差があるのか〜女性の生き方の経済学〜
クラウディア・ゴールディン、鹿田昌美・訳、慶應義塾大学出版会、p.400、¥3740