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横田英史の読書コーナー

三井大坂両替店-銀行業の先駆け、その技術と挑戦

萬代悠、中公新書

2024.3.26  12:37 pm

 1691年(元禄四年)に三井高利が立ち上げた三井大坂両替店の経営の実態を史料に基づき明らかにした書。抜群に面白いのは信用調査(与信)の内容や、江戸時代の法制度を巧みに利用した経営手法である。三井大坂両替店の人事制度、江戸時代の金融事情、人々の道徳観念や社会、風俗などを具体的に紹介されており読み応え十分である。歴史書には珍しく図やグラフを多用して理解を助けてくれるのも評価できる。新書らしい出来栄えの歴史書である。
       
 筆者は、三井大坂両替店の事業概要から始まり、組織と人事、信用調査の方法と技術、顧客たちの悲喜こもごも、データで読み解く信用調査と成約数などを綴る。例えば新規顧客が10人いたとしても、三井大坂両替店が実際に融資したのは1〜2人ほどという。それほど信用調査は厳しかった。
        
 本書は融資先を見極めるポイントなど、信用調査の方法と技術の詳細を明らかにする。手代たちは新規顧客の周辺を取材し、家庭事情(不和、紛争、不品行、ギャンブル癖、横領癖、身の程知らず、放蕩)を探る。家屋敷の評価も重要なポイントとなる。筆者は大阪の家屋敷の時価を紹介しており興味深い。奉公人の職階や昇進、給与体系、退職金制度など、初めて知る内容がてんこ盛りである。奉公人が入店してから退職するまでの総所得の推移など実に面白い。

書籍情報

三井大坂両替店-銀行業の先駆け、その技術と挑戦

萬代悠、中公新書、p.288、¥1100

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。